●いまモーターサイクルスポーツ界では、ホットな女性の話題がたくさん。
●ロードレース、モトクロス、トライアルのカテゴリーごとに、活躍中の女性ライダーに話を聞きました。
●目標に向かってひたむきな彼女たち。今シーズンの活躍から目が離せません。
※この記事は2016年8月に発表されたものを元にしています。
ロードレースで世界を目指す――岡崎静夏
おしゃれな街が似合ういまどきの女性。それが岡崎静夏(おかざき・しずか)さん(24歳)の第一印象。しかし、彼女がレーシングマシンにまたがると、男性ライダーを相手に熾烈なバトルを繰り広げるファイターに一変。全日本ロードレース選手権J-GP3クラスを走る注目の選手なのです。J-GP3は、排気量250ccのレース専用マシンで行われるスプリントレースで、世界選手権のMoto3レースにも直結します。
「今シーズンはなんとか5位以内で終わらせたいですね。来シーズンは絶対に勝ちを挙げて、ランキング1位を目指します。そしてMoto3に挑戦したい」とキッパリ。もし岡崎さんがMoto3へとエントリーできれば、日本人女性としては二十数年ぶりの世界挑戦となります。しかも、狙うのはあくまで“王座”。「レースを志す以上、当然の目標だと思っています」と、強気の姿勢を見せます。
岡崎さんは、2012年からJ-GP3に出場していますが、頭角を現したのはここ1、2年のこと。
「これまでレースに勝つには、気合しかないと思っていました。絶対負けたくないという意地だけで、人一倍長く乗る(練習する)ことしか考えませんでした」と岡崎さん。しかしあるとき、先輩ライダーのマシンを借りて乗る機会があり、その走りやすさに驚いたそうです。
「自分にあった乗りやすいマシンにセッティングすることが重要だとわかって、最近はそこに時間をかけています。勝つためには何が大事か、しっかり考えられるようになってきたんだと思います」
ライダーとしての能力を一気に開花させ、見違えるように走りにキレ味が出てきた岡崎さん。観客を魅了する巧みなライディングで、ぜひ世界へと羽ばたいてほしいものです。
モトクロス世界選手権へ本格参戦――畑尾樹璃
畑尾樹璃(はたお・じゅり)さん(20歳)は、来シーズン、モトクロス世界選手権のウィメンズクラスへの出場を目指しています。同選手権への本格的な参戦がかなえば、日本人女性として初めてのこととなります。きっかけになったのは、2015年3月にタイで開催された世界選手権・ウィメンズクラスに参加したこと。畑尾さんは、第1ヒートが17位で、第2ヒートはなんとか9位に食い込みましたが、大きなレベルの差を味わいました。
「ヨーロッパのトップライダーは圧倒的に速かった。あのレベルに追いついて、本気で勝ちたいという気持ちになりました」
今シーズンの全日本選手権で、畑尾さんはレディースクラスのほかに国際B級(IBクラス)にも出場し、男性ライダーのなかで奮闘しています。
モトクロスは1回のヒートが30分程度ですが、ライダーの疲労は、「マラソンをしたあとに腕立て伏せをやらされるような辛さ」だといいます。IBクラスに挑むことで、筋力、持久力など、畑尾さんは基礎体力が伸びてきたと実感しています。そして、来シーズンに向けた小手調べとして、8月28日にオランダで開かれる世界選手権・ウィメンズクラスの最終戦にスポット出場する予定とのこと。日本のモトクロスのレディース・ライダーとして、畑尾さんの真価が問われるのはこれからです。
もっとレディース・トライアルを広めたい――小玉絵里加
全日本トライアル選手権に、2016年から「レディースクラス」が新設されました。現在、同クラスでランキング2位の小玉絵里加(こだま・えりか)さんは、レディースクラスの開設を強く訴えてきた一人です。小玉さんは2013年と2014年の2回、国別対抗で行われる「トライアル・デナシオン」のレディースクラスに、日本代表チームの一員として出場。世界の女性ライダーと一緒に走る経験を持つことができました。
ヨーロッパ選手の力量をまざまざと見せつけられた小玉さんは、関係方面に「もっと女性同士で競技をやって、技を磨き合える場がほしい」と訴えました。女性のトライアルを発展させるための足場が必要だと感じたのです。
実現には3年かかりましたが、全日本トライアルに念願の「レディースクラス」が誕生しました。小玉さんはレディース選手会の代表も引き受け、積極的に働いています。
小玉さんは、「これからレディースクラスが活性化されれば、地方で頑張っている女性ライダーも挑戦してきてくれると思うし、競技人口の拡大にもつながると思います。トライアルの知名度をもっと高めたい」とのこと。レディーストライアルの今後が、非常に楽しみです。
FIM女性委員会に初の日本人就任――森脇緑
女性の活躍はライダーばかりではありません。国際モーターサイクリズム連盟(FIM)は、MotoGPなどのモーターサイクルスポーツを世界的に統括している機関ですが、そのなかに、女性ライダーの競技環境の改善を図る「女性委員会」が設けられています。この委員会が設立されて今年でちょうど10年になりますが、2015年6月に日本人で初めて、森脇 緑(もりわき・みどり)さんが委員に就任しました。
森脇さんは、「自分に何かできることがあるのかしばらく考えましたが、日本人の委員として、日本はもちろんアジアの女性ライダーの環境改善や育成も含めてFIMで発言していきたいと考えています」と話します。
また、女性ライダーのための具体的なサポートについて尋ねると、「レースは、勝つか負けるかの厳しい世界です。人間として成長しないと強くなれません。そうなろうとして頑張っている女性たちを私はとてもリスペクトしています。どんなときでも一緒に歩み、何か相談されたときには、全力で応援したいと思います」と、森脇さんは決意を述べています。
これからの日本のバイクシーンを盛り上げるために、女性ライダーがいっそう輝くような環境づくりに期待したいものです。
JAMA「Motorcycle Information」2016年8月号特集より
本内容をPDFでもご確認いただけます。
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