●道路交通法改正で125㏄スクーターが多くの人にとって身近になった。
●普通免許を持っていれば、2日間で教習を終えるプランが登場。
●仕事で忙しい人も、土日に頑張ってサクッと免許が取得できるのだ。
125㏄クラスのスクーターが多くの人にとって身近なものになってきている。普通免許がある人なら、2日間で教習を終えることができ(以下「2日間教習」)、これを実施する教習所が全国的に増えているからだ。
この2日間教習とはどういうものか、一般の免許希望者に協力してもらい、教習所への入校から卒業まで密着取材した。
最短2日間での教習プランが実現!
道路交通法施行規則の改正で、昨年7月11日から、普通免許等の保有者は、「AT小型*注1限定普通二輪免許」(以下「AT小型二輪免許」)の教習が、最短2日間で修了できるようになった。これは、1日のうちに受けられる教習時間の制限を見直したことにより、従前と同じ教習内容(技能8時限、学科1時限)が2日間に集約可能となったもの。これを受けて教習所では、特別プランとして2日間教習を実施するところが増えている。一般社団法人全日本指定自動車教習所協会連合会(全指連)の調べでは、2019年2月1日現在、2日間教習を実施している教習所は全国で211校*注2で、このうち教習修了後に即日検定*注3を行っている教習所は131校となっている。
注1:AT小型=クラッチ操作のいらないオートマチックトランスミッションを有する排気量125㏄以下の自動二輪車。スクータータイプや遠心式クラッチのビジネスタイプも該当する。
注2:全指連のホームページに2日間教習を実施している教習所が掲載されている(www.zensiren.or.jp/archives/1853/)。
注3:教習修了後、その当日に技能検定を受けられる教習所と、後日に行う教習所がある。
仕事などで忙しい人に絶好のプラン
東京都小平市にある「新東京自動車教習所」を訪ねた。2日間教習を受ける20代・女性Kさんの協力を得て、入校*注4から卒業までの様子を取材させてもらった。
Kさんは平日、雑貨店で働いている。「通勤や買い物に、バイクなら経済的でいいなと思っていました。2日で教習がこなせると聞いて、だったらお休みの土日に通って免許を取っちゃおうと思ったんです」と話す。
2日間教習は、指導員も車両もあらかじめ確保されているからこそできる特別なプラン。教習所によって実施曜日や料金はさまざまだが、どの教習所も通常より料金は高めに設定されている。それでも、予約がとれずに教習が飛び石になったり、キャンセル待ちの面倒がないという点では、仕事などで忙しい人にとってメリットは大きい。
Kさんの教習を受け持つ指導員は、「2日間教習は、中身がギュッと詰まっていて、かなりハードです。そのかわり連続的にバイクに乗れることで運転に慣れるのが早く、効果的な教習が可能だと思います。体力に自信があって、短期間で教習を終えたい方には、絶好のプランとしてお勧めします」と話す。
注4:入校手続きは、申し込み書類の提出、視力検査、入校ガイダンスなど1時間程度で済むが、それらをもとにして教習原簿の作成に時間を要するため、ほとんどの教習所は、あらかじめ教習とは別の日に行っている。
教習1日目――バイクの運転に慣れる
教習初日、まず午前9時40分から10時30分まで運転の適性検査を行った。このあと、教習の「第1段階」の技能が3時限、「第2段階」の技能が1時限、合計4時限がスケジュールに組まれている。
Kさんは、久しぶりの教習所の雰囲気に、少し緊張した表情だ。
■車両の取り扱いから一本橋まで
バイクはまったくの未経験。Kさんは、運転装置、乗車の手順、降車の手順の説明を聞いて、それを飲み込むのに真剣だ。
初めてエンジンをかけ、発進・停止は恐るおそるの様子だが、指導員に「では、コースに出ますので、私の車両についてきてください」と言われると、「えっ」と間をおいて、それでもすぐ後を追いかけていた。
外周を回るうちに、だんだん速度も出てきた。S字カーブ、クランク、一本橋など、課題にも取り組み、1時限目だけで、車両の取り扱いから基本的な運転技能まで、まずは一通りの目標をこなすことができた。
■バイクの車両特性を理解する
クルマのハンドル操作と異なり、バイクは車体を傾けることで自然に旋回するが、初めての人には難しい感覚だ。
このため技能教習の2時限目*注5は、安全で滑らかなコーナリングを身に付けるため、車体の傾きと速度の関係など、指導員の後ろに乗車して体験した。
ほかにも、一本橋でのバランスをどうとるか、狭いクランクで左右への倒し込みをどうやるか、二輪の車両特性を踏まえた教習が進む。Kさんの運転は、みるみる上達していく。
当初の緊張も解けてか、3時限目に行われた「教習効果の確認」(みきわめ)を、Kさんは無事にクリアすることができた。
注5:技能教習の第1段階2時限目の「車両特性を踏まえた運転」は、シミュレーター教習への代替が可能となっている。
■路上運転を模擬体験する
1日目の最後の教習は「第2段階」の1時限目を行う。ライディング・シミュレーターを使って路上運転を模擬体験し、交通法規を守り、公道を走るうえで注意すべき事柄について学ぶ。
1日目を終えたKさんは、「不安に思うヒマもなく、あっという間でした。もっと練習したい課題もありましたが、とにかく楽しく取り組めているので、ホッとしています」と話した。
教習2日目――交通状況を読む運転
2日目は、「第2段階」の2時限目から始まる。午前中は技能2時限に学科1時限、昼休みを挟んで、午後は技能が2時限あり、合計5時限のスケジュールが組まれている。
■危険を回避する訓練
初日の教習の積み重ねを踏まえて、ここからの教習は、混合交通におけるバイクの安全運転について、必要な知識と技能を掘り下げる内容となっている。
まず、典型的な二輪事故である「右直衝突」、「出会い頭の衝突」、「左折車による巻き込まれ」など、実際にバイクとクルマに乗車してケーススタディを行ったほか、指示速度からの急制動や、旗の合図で左右のどちらかへ瞬時に車体をかわすテクニックなど、万一の場合に役立つ危険回避訓練を繰り返し行った。
さらに、シミュレーター教習では二輪事故を疑似体験し、続く学科教習では交通に潜む危険をいかに予測するか、詳しい解説を受けた。
■運転技能の総仕上げ
教習も終盤に入り、Kさんの運転にはメリハリが出てきた。スムースな発進、直線での十分な加速、進路変更の合図と安全確認、一時停止からの左折、右折。コース上にはほかのクルマやバイクも走行しており、交通状況を読みながら適切な運転を行っている。
指導に当たった指導員は、「原付の経験もないということだったので慎重に様子をみましたが、昨日今日とみっちり取り組んだことで、運転のコツを掴むのが早かったようです。バイク未経験者の方にも、2日間教習はお勧めできそうですね」と、満足そうだった。
「第2段階」のみきわめも無事にクリアしたKさん。これで教習修了だが、同校では即日の技能検定を実施している。あとひと踏ん張りだ。
いよいよ技能検定にトライ!
技能検定は、その内容や諸注意の説明を受けた後、16時30分から開始された。Kさんは、「ここまでがんばったので、あとは落ち着いて、教わった通りの運転をやるしかありません。落ち着けば大丈夫」と、自分に言い聞かせた。
果たして、結果は見事に合格。走り終わった瞬間にそれとわかる出来だった。卒業証明書を受け取って、後日、運転免許試験場で免許証が交付されれば、晴れてライダーの仲間入りだ。
入校手続きに1日、教習と技能検定に2日、免許証交付に1日。まったくのバイク未経験からでも、4日でAT小型二輪免許を手に入れることができた。
AT小型二輪免許への関心の高まりに期待
さて、法令改正によって実現したAT小型二輪免許の2日間教習だが、従前の制度では、法令上は最短3日間で教習を修了することができた。しかし現実には、教習の予約が取れないなどの事情で、平均で5.7日間かかっていたというデータ*注6もある。それと比較すれば、今回の2日間教習の実現は、免許希望者の時間的負担を少なからず緩和させるものになったとみることができる。
注6:2017年8月に開かれた「二輪4社合同記者会見」の発表資料より
もちろんこの2日間教習は、特別プランとして免許希望者の選択肢を広げることに寄与するものであって、通常の教習プランと優劣を比較するものではない。あくまで免許希望者の好みによって、短期に集中して教習をこなしたいか、あるいは都合のいい日を選んで少しずつ教習に取り組むか、料金の兼ね合いもあるので、どちらを選ぶかは人それぞれといったところだ。
ちなみに下のグラフは、AT小型二輪免許の試験合格者数の推移だが、だんだんと増加傾向にある。125㏄クラスの有用性が見直されていることが背景にあるが、2日間教習の実現で、今後のグラフの伸長に一気に弾みがつくものと期待したい。
JAMA「Motorcycle Information」2019年5月号特集より
本内容をPDFでもご確認いただけます。
PDF:これで私もライダーです!