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2018.2.28

早春トップインタビュー 2018年・市場への意気込み

●春を迎え、2018年の国内二輪車市場が賑やかになる。

●メーカー4社の二輪部門トップにそれぞれインタビューを行った。

●国内・海外市場への展望、「EVシフト」への対応など尋ねた。

2017年の国内二輪車販売状況

日本のバイクメーカー4社、カワサキ・スズキ・ホンダ・ヤマハの各二輪車部門トップにインタビューを行った。国内・海外の二輪車市場を踏まえ、この春に注目すべき製品や需要拡大への展望を聞く。また、世界的なEVシフトが加速するなか、二輪車への影響はあるのか、各社の考えを尋ねた。
まず、2017年の国内二輪車販売実績を振り返る。
カテゴリー別にみて、2017年の原付一種(50cc以下)の販売実績は前年比107.5%と増加に転じた。

●2010~2017年原付一種販売推移
※原付一種の販売台数は工場出荷台数(日本自動車工業会調べ)
※原付一種の販売台数は工場出荷台数(日本自動車工業会調べ)


自動二輪車(50cc超)についてみると、全体では前年比99.3%で昨年並み。カテゴリー別では、原付二種(50cc超~125cc以下)が87.5%、軽二輪(125cc超~250cc以下)が121.9%、小型二輪(250cc超)が100.7%。軽二輪は過去9年間で最高の販売実績となった。

●2010~2017年自動二輪車販売推移
※原付二種の販売台数は工場出荷台数(日本自動車工業会調べ) ※軽二輪は届け出台数、小型二輪は新規検査台数(全国軽自動車協会連合会調べ)
※原付二種の販売台数は工場出荷台数(日本自動車工業会調べ)
※軽二輪は届け出台数、小型二輪は新規検査台数(全国軽自動車協会連合会調べ)

 

カワサキ●浅野 剛(あさの たけし)氏

川崎重工業(株)モーターサイクル&エンジンカンパニーバイスプレジデント
1956年 愛知県生まれ

03_浅野剛氏

【記者】 まずは浅野さんのご経歴と、バイクに関するエピソードをお聞かせください。
【浅野】 私はモーターサイクル部門は2010年からで、2013年にカワサキモータースジャパンに1年いました。ちょうど「Ninja 250」がヒットしたときで、販売の最前線は楽しい経験でした。プライベートでは50歳を過ぎてから二輪免許を取得したのですが、両手両足を使って気持ちを集中させて走ると、まさしく若さが戻ってくる気分になりますね。
【記者】 二輪車の製造、販売の両面を経験されているのですね。2017年の二輪車市場を振り返ってみてどんな感想を持ちますか?
【浅野】 昨年に限らず、ここ数年の推移をみると、軽二輪も小型二輪もそう悪くないですね。魅力的な製品が増えてきたのもあるけれど、当社の「Ninja 250」の人気をみても、生活のなかのファッションとして若者の心を捉えたのが大きいと思います。昨年は「インスタ映え」が流行語になりましたが、バイクもインスタ映えするアイテムとして、カッコいいイメージが広まっているんじゃないかな。
【記者】 浅野さんがとくにお勧めする新型車を紹介してもらえますか?
【浅野】 はい。普通二輪免許で運転できる最大排気量が400ccクラスなので、国内市場をみれば大事なカテゴリーです。当社はこの2月1日にフルモデルチェンジした新型「Ninja 400」を発売しました。新しい「Ninja 400」は、同時に開発した新型「Ninja 250」と同じ車体に400ccエンジンを載せています。つまり以前の「Ninja 400」と比べてかなり軽量化されており、非常にエキサイティングなバイクに仕上がったと思います。大型二輪免許は持っていないけれどファンライディングを楽しみたいという方や、リターンライダーにもおススメです。いまから反響が楽しみなバイクです。

カワサキ「Ninja 400」
カワサキ「Ninja 400」

【記者】 海外市場については、近年、気になる地域や国はありますか?
【浅野】 欧州の経済がだんだん上向いているし、政治的なリスクも少なくなったので、市場も悪くないですね。スペイン、イタリアなど南欧の経済情勢が改善してきて失業率も下がっているので、いっそうの需要回復を期待しているところです。もともと欧州はアドベンチャータイプが圧倒的に人気があるんですが、それに加えていまはネオレトロが流行になっています。いいバイクを作れば、きちんと評価して買ってくれる。欧州は、そういうやりがいのある市場なのです。
【記者】 近年、EVシフトへの関心が高まっていますが、浅野さんはどう捉えますか?
【浅野】 当然、対応は必要でしょう。当社ではまだ研究が始まったばかりとしか言えないのですが、人がモーターサイクルに求める魅力とは何なのか、マシンの音、加減速によるミッションの振動、そういった要素も大きい。それらを因数分解して、EVにしたときどんな答になるのか、そこは重要だと思っています。
【記者】 レジャー領域でのバイクを数多く生産しているカワサキだけに、もしEVバイクを作ったらどんな製品になるのか興味は尽きません。ありがとうございました。

スズキ●西河 雅宏(にしかわ まさひろ)氏

スズキ(株)二輪事業本部本部長
1957年 石川県生まれ

05_西河雅宏氏

【記者】 西河さんは開発部門が長かったそうですね?
【西河】 はい。いままでに油冷のスポーツバイクやオフロードの単気筒エンジン、Vツインエンジン、「隼」のエンジンの開発にも携わりました。最近のバイクづくりは、走行性能だけでなく、環境性能、経済性、デザインなど総合性能が要求されます。難しいけれどやりがいは大きいと思います。
【記者】 2017年の国内市場を振り返っていかがですか?
【西河】 やはり軽二輪が伸長したのは非常に心強いですね。当社はアドベンチャータイプの「Vストローム250」を投入したところ、約4割のお客様が新規購入者でした。これまではアドベンチャータイプといえば大型バイクというのが常識でしたが、それが軽二輪クラスであれば足が着きやすいし、取り回しも楽。「あきらめていた世界に手が届いた」というユーザーも多く、新しいジャンルのバイクとして手応えを感じています。
【記者】 そのほか2018年の国内市場に向けて、イチオシのバイクは何ですか?
【西河】 そうですね、当社の場合、原付二種ではスクーターに安定した人気があるのですが、それに加えて1月26日に125ccのスポーツモデル「GSX-R125 ABS」を新発売しました。「GSX-R1000」を頂点としたGSX-Rシリーズのスピリットが注ぎ込まれて、軽快かつスタイリッシュなデザインのバイクです。街乗りからワインディングまで胸がすくような走りを楽しめると思います。これも含め、今年の原付二種市場には大いに期待しています。

スズキ「GSX-R125 ABS」
スズキ「GSX-R125 ABS」

【記者】 いま運転免許(AT小型限定普通二輪)の簡便化が検討されていて、年内にも実現される可能性が高いと聞いています。そうした改正が追い風になれば、今年の原付二種市場には期待が持てますね。海外市場のほうはいかがですか?
【西河】 北米市場は、リーマンショック以前に年間100万台あった需要が約50万台にまで減っています。そういう市場に対してどのような商品を届けるかが難しいのですが、北米ではオフロードバイクに根強い人気があり、スズキとしてはこのようなカテゴリーを大事にしていくことが肝心だと考えています。
【記者】 北米市場にもまだまだ期待したいところですね。最後の質問ですが、西河さんは、EVシフトについてどんな考えをお持ちですか?
【西河】 ガソリンエンジンはもう100年以上も改良・改善が続いており、人類が手がけた非常に優れた工業製品ですから、一気になくなることはあり得ないと思うのです。
一方、当社の燃料電池バイクである「バーグマン フューエルセル」に乗ると、走行フィーリングはガソリン車とぜんぜん違います。走っても音がしないので鳥のさえずりが聞こえてきたりして、ガソリン車にはない面白味があります。将来的には、エンジンの世界と電動の世界が共存していくような方向になっていくのではないかと、私は予測しています。
【記者】 スズキの取り組みも進んでいるのですね。ありがとうございました。

ホンダ●安部 典明(あべ のりあき)氏

本田技研工業(株)二輪事業本部長
1962年 埼玉県生まれ

07_安部典明氏

【記者】 安部さんは海外が長いそうですね?
【安部】 私は1986年に入社して、20代でポルトガル、30代以降はブラジル、メキシコ、再びブラジル、そしてタイ。タイ以外は二輪にどっぷりでした。とくに若い頃にバイク文化が発達した欧州から大きな影響を受けました。また、ブラジルでは当時、生活の移動手段としてバイクが急速に普及していましたから、非常にエネルギッシュな市場を経験することができました。
【記者】 日本に戻ってから、国内市場についてはどう見ていますか?
【安部】 まず、低迷している原付一種ですが、2017年は前年実績を上回りました。しかし、2016年は熊本地震があって生産体制の影響もありましたから、市場の基調としては減少傾向だと見ています。駐車場不足や最高速度の30km/h規制、二段階右折など、利用環境の不便さが否めません。海外から日本に帰ってわかるのは、先進国で自転車がこんなに多い国は珍しいということ。つまりミニマムコミューターの潜在需要は大きいはずだから、原付の利便性や経済性が再び日本の交通社会で発揮できるように、カテゴリーのあり方も含めて位置づけを見直していく必要があると思います。
一方、軽二輪の販売が大きく伸びたことは非常に喜ばしいですね。当社の「CBR250RR」は予想以上の反響で大きな手応えがありました。軽二輪クラスのスポーツタイプは若い人たちの人気を獲得しているので、この傾向は大事にしていきたいものです。
【記者】 春の市場に向けて、話題になりそうなニューモデルはありますか?
【安部】 はい。ホンダのフラッグシップである「ゴールドウイング」を4月2日から国内で発売します。このモデルはとくに北米で人気を博していて、1975年から40年以上も続くロングセラーですが、17年ぶりにフルモデルチェンジして新登場ということになります。
新しい「ゴールドウイング」は、軽量・コンパクト化を図っており、走りの楽しさや操る楽しさがますます充実しています。デザインもさらに洗練されて、エッジのあるシェイプアップされたスタイリングです。4月からホンダの新販売網である「Honda Dream」が展開されるのですが、その看板製品として前面に押し出していきたいと考えています。

ホンダ「ゴールドウィング ツアー」
ホンダ「ゴールドウィング ツアー」

【記者】 海外市場ですが、近年のブラジルなど中南米はいかがですか?
【安部】 中南米は市場規模がいま約400万台となっています。ここ数年、ブラジルは政治の混乱などで市場が一気に後退しました。最近ようやく落ち着いてきて、もう少し雇用が安定して経済が上向けば二輪車の需要回復も期待できそうです。メキシコやアルゼンチン、コロンビアは堅調に推移しており、中南米の市場ポテンシャルは高いと思います。
【記者】 世界的なEVシフトの潮流についてもコメントをいただけますか?
【安部】 いま日本国内ではガソリンスタンドの閉店が増えて、何十キロも走らないと給油できない地域があります。そういった場所でも電気は通じていますから、もっとEV化を急いだほうがいいのかもしれない。一方、世界的にはアジアなど雨ですぐに冠水する地域もあって、そこでは本当にEVでいいのか疑問もあります。中国もインドもEV化への到達目標を掲げていますが、まだまだ時間のかかる問題だと思います。しかしながらメーカーとして対応できる技術は用意しておく必要があると考えています。
【記者】 昨年の東京モーターショーでは原付二種に相当する「PCXエレクトリック」も公開されましたが、市場に登場するのが楽しみです。ありがとうございました。

ヤマハ●渡部 克明(わたなべ かつあき)氏

ヤマハ発動機(株)代表取締役 副社長執行役員
1959年 愛知県生まれ

09_渡部克明氏

【記者】 渡部さん、ご経歴をご紹介ください。
【渡部】 私は生産技術が専門で、入社してからずっと製造畑です。42歳から50歳まではフランスとベトナムに4年間ずつ駐在して、2010年に日本へ戻ってきたのですが、その後も2013年まで製造一筋。53歳になって初めてMC事業を任されて、まさに奮闘です。今年1月からは副社長として全体を見ています。
【記者】 昨年の国内市場を見ますと、軽二輪が大きく伸長しましたが……。
【渡部】 軽二輪の好調は、原付二種からのシフトもあったのかなと思います。原付一種を除いた全体では前年並みに落ち着きましたからね。今後、さらに国内市場の拡大を図るには、若者や女性層に向けた新しい需要開拓が重要です。世界のなかで“ガラパゴス化”している原付一種のあり方も含め、車両区分や二輪免許の全体を点検して、国際的な基準調和を進めていく必要があると考えています。
【記者】 国際基準調和というと、欧州のスタンダードに近づけるということでしょうか。
【渡部】 そうですね、EUの免許制度など研究しているところです。
【記者】 この春、ヤマハではどんなニューモデルが話題になりそうですか?
【渡部】 ここ数年、250ccクラスのオートマチック(ビッグスクーター)があまり伸びていなかったので、その領域にチャレンジしたい。当社でいえばMAXシリーズという製品ラインアップがあって、530ccの「TMAX」、125cc・155ccの「NMAX」、そしてその中間に、先日(1月25日)、250ccの「XMAX」を新発売しました。
250ccのオートマチックは、コンパクトながらパワーもあるし、ゆったり乗れる快適さが魅力です。とくに「XMAX」は、走行性能と燃費効率のバランスが優れているので、趣味の領域でも実用の領域でもユーザーのニーズに応える製品だと思います。すでに予想を上回る受注を獲得しており、手応えを感じています。

ヤマハ「XMAX ABS」
ヤマハ「XMAX ABS」

【記者】 海外市場をみると、アジアが非常に好調のようですね。
【渡部】 いまインドが世界最大の市場で、1,800万台の規模があります。インドの販売シェアをいかに拡大するかがこれからの大きな取り組みになります。ほかにも、タイ、ベトナム、マレーシア、フィリピンなど、アセアン諸国の市場も活況を示しています。フィリピンではスクーターがどんどん増えていて、新車の総需要は前年比125%の勢い。不振が続いていたインドネシアも底打ち感が出てきたし、アジアの市場はホットです。
【記者】 急速に進んでいる自動車のEVシフトですが、二輪車にも影響はありますか?
【渡部】 四輪車のEVシフトは避けられないトレンドになっているし、そのスピード感も速くなっています。いずれ二輪車もその方向に行くというのは、想定しておかなければなりません。製品については各社が取り組むにしても、二輪車用の充電スタンドをどうやって普及させるのかなど、インフラ整備に関する課題も大きい。
そこで当社とホンダさんが協働して、昨年からさいたま市で電動バイクの実証実験に取り組んでいて、バイクを駅の駐輪場に駐車する際に、係員が充電済みのバッテリーに交換してくれるサービスを実施しています。そういうビジネスモデルが成り立つのかどうか、とても関心があるところです。
【記者】 これからEVバイクの話題からは目が離せませんね。ありがとうございました。

JAMA「Motorcycle Information」2018年1-2月号特集より
本内容をPDFでもご確認いただけます。
PDF:早春トップインタビュー