●自動車のEVシフトは、バイクの世界にも影響している。
●電動バイクの性能は進化しているが、普及には課題もある。
●ホンダとヤマハが共同で、本格普及のための取り組みを開始した。
環境意識の高まりに応える電動バイク
電動バイクの普及に向けた取り組みは、さいたま市と、ホンダ、ヤマハの3者で組織する「電動二輪車実証実験推進協議会」が行っている。
今年9月2日~3日、さいたま市見沼区役所で、電動バイクの実証実験(利用モニター)に応募した市民(定員30人)に車両の引き渡し説明会があった。
さいたま市では2009年から電気自動車(EV)の普及プロジェクトを推進しており、市内にEV用の充電スタンドを設置したり、公用車にEVを導入するなど取り組んでいる。今後は電動バイクの普及にも力を入れていく考えだ。
一方、ホンダとヤマハは電動バイクの製造実績があり、それぞれ技術を蓄積してきたライバル企業同士。しかし昨年10月、両社は原付一種に関する協業を発表し、その取り組みの一つとして「電動バイクの普及への協働」を掲げた。今回の実証実験は、原付一種領域におけるホンダとヤマハによる協業の記念すべき第一弾ということだ。
ヤマハの担当者は、「2015年の国際会議で成立した『パリ協定』以降、世界の環境意識は急速に高まっており、自動車をEVへシフトさせようという強力な力が生まれています。電動バイクについても、コミューターとして十分な航続距離、充電時間、製造コストの課題など、メーカーの枠を超えた協力によって乗り越え、普及を図りたい」と話す。
駐輪場でバッテリー交換サービスを実施
今回の実証実験では、電動バイクの使用感についてモニターの感想を集めるほか、使用頻度や走行距離などの状況を把握することで、電動バイクのもつ実用性を確かめ、次のステップへつなげようという狙いがある。また、一つのアイデアとして駅の駐輪場でバッテリー交換サービスを行い、それが電動バイクの利便性をどれだけ向上させるか調べているところだ。
このためモニターが通勤などで利用する駐輪場は指定されており、駐輪場の係員がバッテリーの交換と充電を随時行ってくれる。このサービスによって電動バイクの利用が快適になれば、市内にある駐輪場などを今後の有効な充電インフラとして検討できるわけだ。
ホンダの担当者は、「充電にかかる手間と時間は、電動バイクを普及させる上での課題です。しかしこの仕組みがあれば、ユーザーにかかる不便がほぼ解消されます。これによってユーザーが電動バイクをどう受け入れるか、その反応が非常に気になります」と話している。
電動バイクを試乗した反応は?
説明会を終えたモニターは、次々と電動バイクを試乗した。走り出すとみんなニコニコして、新しい感覚に触れたときの愉快そうな笑顔になる。若い男性モニターは、「走りが軽快で、面白いですねコレ」と興奮気味。「私は新しいモノ好きで、電動バイクの経済性に興味があります。ガソリン車よりも経済的なら、ぜったい電動バイクを選びます」という。
バイクを運転するのが初めてという女性もいた。バイクの音が静かなことと、モーターによるスマートなパワー感のおかげで、「ぜんぜんコワくないし、抵抗なく運転できました」と嬉しそう。ソフトな感覚で安心して乗れる電動バイクは、女性にとって親和性が高いようだ。これまで原付一種に興味がなかった人でも、「電動バイクならば」とエントリーしてくる可能性もある。電動バイクの普及は、原付一種の市場に新しい需要を生み出すカギともいえそうだ。
都市交通の効率化への期待も
さいたま市では、電動バイクの普及が低炭素社会の実現に寄与するだけでなく、交通空白地域の解消にも役立つと期待している。
同市の担当者は、「駅までのアクセスが比較的不便な区域で、かといって常に車が必要というほどでもないという交通空白地域があります。そうした地域のモビリティとして電動バイクが活用できるかもしれません。都市交通の効率化を図る点からも、電動バイクには役割が期待できそうです」と話す。
今後、さらに厳しくなる排出ガス規制に対応していくことを考えると、原付一種はガソリン車であることがどんどん難しくなるといわれている。パーソナルコミューターとしての原付一種のメリットを世の中に残していくためにも、電動バイクの普及は大きなテーマといえそうだ。
JAMA「Motorcycle Information」2017年10-11月号特集より
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PDF: 電動バイク本格普及に向けホンダとヤマハの取り組み