●同校には全国でも珍しい「モーターサイクル部」がある。
●スポーツとしてのバイクに、生徒は思う存分親しんでいる。
●授業では得られない大切なものを学んでいる。
能登空港に隣接した私立高校
石川県の能登半島。輪島市の南東に能登空港があり、日本航空高等学校石川は、まさにその空港に接して設置されている。
名称の通り同校は「航空科」に特化した私立高校だ。能登空港キャンパスでは、パイロットやキャビンアテンダント、航空整備士など、航空業界での仕事を目指す若者たちが学んでいる。空の仕事に憧れる若者に人気があり、毎年、日本全国から入学希望者が集まるほか、海外からも多くの留学生がやってくる。
親元を離れて暮らす生徒が多いため寄宿舎などの寮施設が完備。多くの時間を学校と寮で過ごすため、クラブ活動が盛んだ。現在、同校では運動部と文化部を合わせて23のクラブが運営されており、そのなかの一つに「モーターサイクル部」(部員数31人)がある。
モーターサイクル部でトライアル!
今年5月5日~7日までの3日間、モーターサイクル部の集中トレーニングがあった。学校から東に20kmほど離れた場所に、建設会社の跡地を利用したトライアル場があり、そこを借りてライディングの特訓を行うという。
敷地には丸太や土管、岩、コンクリートなどを組み合わせた“セクション”が設けてある。顧問の先生の指示で、生徒たちは1人ずつ順番にセクションに挑む。前輪を浮かせて丸太を乗り越え、狭いスペースでマシンを方向転換し、コンクリートの障害物によじ登り、岩場を越えてゴールする。何度も繰り返しトライするが、丸太にマシンの腹が乗っかって立ち往生したり、バランスを崩して転倒する生徒もいる。副顧問の先生がマインダー(補助役)をして、危ないときは支えているものの、擦り傷や打ち身などのケガは日常茶飯事だ。
同クラブ顧問の先生は、トライアルの国際B級ライセンスを持ち、かつては全日本選手権に出場していた経歴もある。クラブの顧問を引き受けてかれこれ12年になるという。「なにしろ航空機を扱う生徒たちですから、バイクは“危ないから触らせない”なんて言えません。むしろ積極的に触って、乗って、どう扱えば安全か、いかに整備が大切か、身をもって知ることが大切」と話す。
クラブが所有するトライアル車は、現在、12~13台あるが、顧問のトライアル仲間が寄贈してくれたもの。「北陸のトライアル仲間のお陰で順調にやっています。こういう地域協力の大切さも、生徒たちに伝われば嬉しい」と話し、顧問はこのクラブのことが誇らしそう。
生徒たちの成長が頼もしい
トレーニングを見ていると、だんだん生徒たちの技量がわかってくる。すんなり障害物をクリアする生徒もいれば、苦手な場所に何度もトライする生徒、難しい障害物は回避する生徒もいる。セクションをどう攻略するか、自分の技量に合ったライン(走る部分)を見極め、あくまで自主的にトレーニングしている。生徒たちは、このクラブ活動にどんな魅力を感じているのだろうか。
3年生のTさん(和歌山県出身)は、救難ヘリコプターの操縦士になるのが夢。クラブでは部長を務めている。「トライアルの面白いところは、できなかったことができるようになる、その努力の結果が自分でわかるところです。大切なのは、バイクのことをけっして舐めてかからないこと。この心構えは仕事でもきっと役立つと思います。久しぶりに会った両親から、『お前、ずいぶん成長したな』と言われて、自分も少しは大人になれたのかなと思います」と、照れ臭そうに話していた。
Sさん(東京都出身)は、航空メカニックを目指す3年生。入学当初はグライダー部やヨット部にも迷ったが、モーターサイクル部なら「卒業してからも楽しめそう」と考えて入部を決めた。「それほどバイクに興味があったわけではなかったのに、トライアルを始めたら面白さにハマってしまいました。幼い頃からスポーツはいろいろやりましたが、“努力するのが楽しい”と思えるものに出合えたのは初めてです。次の技を攻略したいという気持ちが普通に出てきて、マシンの構造や整備についても興味が止まりません」という。東京に帰ると、トライアルを楽しめる場所が少ないのが残念だが、いずれバイクの免許を取得したら、ツーリングなども楽しみたいと話していた。
乗り物に対する安全意識が養われる
同クラブでは、生徒たちがトライアルの腕試しをする場として、石川県や福井県などで開かれる一般のトライアル大会に参加している。また、2016年から全日本トライアル選手権にレディースクラスが創設されたことで、昨年は同クラブからも女子生徒2人が中部トライアル選手権(レディースクラス)に出場を果たすなど、具体的な目標が見え、大きな励みになっている。
顧問の先生は、「ほとんどの生徒はバイク未経験で入部してくるので、技量はまだまだです。競技大会での成績よりも、ライディングの基礎をしっかりやって、トライアルの面白さがわかるようになるのが先ですね。生徒同士で切磋琢磨して、自分自身を高めてくれればいい」と話す。
また、副顧問の先生は、「上達してくると、マシンの整備もしっかりしてきます。1年生のうちは車両に不具合が多かったりしますが、3年生のマシンはよく整備されていてキレイです。航空機の整備を勉強している生徒たちですから、どうすれば事故を未然に防げるか、いかにルールを守ることが大切か、このクラブで学ぶことは、将来必ず役立ちます」と話していた。
JAMA「Motorcycle Information」2017年6月号ズームアップより
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PDF: バイクトライアル部