●二輪車の駐車場不足問題が変容してきている。
●都内の一部エリアでは、用事などで一時駐車するのに困らなくなってきた。
●一方で駐車場“ゼロエリア”もあり、依然としてライダーを困らせている。
二輪車の駐車場不足が問題になってから15年ほどになる。当初は、街なかにバイクをとめられる場所が“皆無”といった状況で、二輪車ユーザーはみな悲鳴を上げたが、行政関係者と民間事業者の努力により、近年は都市の主要駅周辺や繁華街などでも、バイク駐車場が散見されるようになってきた。
国土交通省の資料によれば、2018年度末現在、自動二輪車の駐車場箇所数は全国で2,348カ所、約6万台のキャパがある。2006年度末に比べ9.4倍に増加した。ただ、保有台数1,000台当たりの駐車可能台数は、自動車が68台あるのに対して自動二輪車は11台となっており、水準としては少ない。「増えてなお不足している」というのが、数字上での現状といえそうだ。
●自動二輪車駐車場の整備水準(国土交通省資料より)
ユーザーの不満は緩和されてきている――需要回復につなげたい
バイク駐車場の数について、二輪車ユーザーはどのような意識を持っているか。一般社団法人日本自動車工業会(自工会)では、2020年3月に「二輪車駐車場の利用ニーズに関する調査」(以下「駐車場ニーズ調査」)を行っており、このなかに、東京都の二輪車ユーザー162人が回答した結果がある。これによると、都内のバイク駐車場の箇所数に不満を持っているユーザーは、全体の62.9%となっおり、以前と比べて少し緩和してきた。
●駐車場個所数への満足感(東京都)
2006~2007年当時、二輪車の駐車場が絶対的に不足しているなかで違法駐車取締りが強化され、二輪車を手放したユーザーも少なくない。今後は、駐車場がある程度充足してきたことを周知して、バイクを手放したユーザーが再び戻ってこれるように環境を整えていくことも大事だろう。
参考までに、自工会の「駐車場ニーズ調査」では、東京都の二輪車ノンユーザー(二輪免許は所持している)78人に、「欲しい場所に二輪車駐車場が整備されたら、バイクを利用したいか」を尋ねている。すると、27.0%が「二輪車の利用(購入)に関心がある」と回答し、「レンタルで利用したい」という回答も17.9%あった。合わせるとノンユーザーの44.9%が、駐車場の充足によってバイクの利用を考えるということになる。
●駐車場の充足による二輪車利用への関心(東京都)
東京・渋谷区の現在――探し方ひとつでバイクの駐車は可能
東京都内の駐車場事情がどのように変わってきているか、代表的なスポットを訪ね、実際にバイクが駐車できるか検証してみた。
試しに選んだのは、渋谷区の中心街。無作為に繁華街を訪れた場合でも、問題なくバイクを駐車することができるだろうか――。
6月某日、平日の渋谷・井の頭通りは、さほどの混雑はなかった。有名ラーメン店で食事をするという目的を設定して、店の前までバイクでやってきた。道路は一方通行の狭い街路で、見渡してもバイクがとめられそうな施設は見当たらない。一方で、クルマの駐車場はすぐ隣のビルに見つかった。やはりバイクの駐車は難しいのだろうか?
都内のバイク駐車場を探せるWebサイトで検索してみると、「渋谷第七LABI渋谷屋上駐輪場」が近くにあることがわかった。ラーメン店から100mほど離れた文化村通りに、「LABI」のビルがあるようだ。駐車場の看板がないのでわかりづらかったが、よく見るとビル1階のフロアに駐車場専用エレベーターがあり、バイクを屋上まで運搬する仕組みになっている。
屋上に上ると、スペースは広く収容台数は56台と十分な枠があった。利用時間は全日10:00~22:00と限られるが、1時間100円という料金なので気軽に利用できる。渋谷の中心エリアに用事がある場合、便利に利用できる駐車場の一つだろう。バイクで走りながら探したのではまず目につかないため、あらかじめ検索して場所の見当をつけておくことが、スムーズな駐車場探しのコツといえそうだ。
現在、駅周辺が再開発中の渋谷では、新しい商業ビルが次々とオープンしている。そのうち「渋谷ヒカリエ」、「渋谷フクラス」、「渋谷ストリーム」ではバイク駐車場がしっかり整備されている。「渋谷ストリーム」の場合、料金は1時間までは無料で、それ以降、1時間100円(125cc以下は2時間100円)という低料金だ。訪れてみると、平日のためか駐車している車両は意外なほど少なく、いつでも気軽に利用できる印象だ。
実地に試した感想からいえば、もはや渋谷駅の周辺はバイクの駐車に困らないといっても過言ではない。バイクで気軽にアクセスして、食事やショッピングを大いに楽しめる街になったともいえる。都内の主要駅である新宿駅や池袋駅の周辺にもバイク駐車場は点在しており、渋谷と同じような利便性が期待できそうだ。
一方でライダー泣かせの“駐車場ゼロエリア”
しかしながら、東京都内でバイクの駐車場不足が解消したかといえばけっしてそうではない。主要駅の周辺エリアに駐車場が増えつつある一方で、いまだにまったく駐車不可能なエリアがあって、二輪車ユーザーを困らせている。
たとえば新宿区・四ツ谷駅周辺、文京区・江戸川橋駅周辺、世田谷区・自由が丘駅周辺などは、“バイク駐車場ゼロエリア”となっており、用事があってバイクで行ってもとめる場所がない。渋谷と同様に、四ツ谷駅周辺で、バイク駐車場を探してみることにした。
まず、四ッ谷駅の周辺をバイクで周遊する。クルマの駐車場は駅のそばにいくつか見つかった。自転車は歩道上に駐車スペースが設けられている。バイク駐車場はないか見回すが、無駄に時間が過ぎていくだけだ。理想的な場所に駐車場がないことの表れか、駅からだいぶ離れた道路脇の空きスペースに、スクーターが数台、青空駐車してあった。
四ッ谷駅に戻りスマホで検索すると、直線距離で450mほど離れた場所に「四ツ谷・市ヶ谷バイク駐車場」を見つけることができた。走行距離を測ると、道のりでは500mを超える場所だ。しかしたどり着いてみると、駐車枠は数台分しかなく、満車である。
ちょうど駐車したばかりのライダーがいたので話を聞くと、「この辺のバイク駐車場はここだけなんです。通勤で使っていて、ここにバイクをとめて会社まで歩いて6~7分かかります。ここが埋まっていると、飯田橋までいかないと駐車できません。そうなると会社まで徒歩10分以上かかるのですが、バイク通勤自体は便利なのでやめたくないし。この近辺に、もう少し駐車場が増えてくれればありがたいのですが……」と話していた。
「駐車場ニーズ調査」によると、二輪車ユーザーが駐車場から目的地まで許容できる距離は概ね徒歩5分(400m)以内となっており、5分を超える距離を許容できる二輪車ユーザーは全体の1割(10.5%)しかいない。四ッ谷駅の400m以内にはバイク駐車場が「ゼロ」だから、今後のバイク駐車場整備に求められるのは、こうした空白エリアをなくしていくことではないだろうか。
●駐車場から目的地までの許容距離〈徒歩〉(東京都)
今回の取材で、東京都内のバイク駐車場の不足問題は、「絶対数が乏しい」といった当初の課題から、「ある場所にはあるが、まったくない場所も残っている」という、供給バランスの難しさが課題として明らかになってきた。変容するバイク駐車場問題に適応した取り組みが、今後は求められそうだ。
■「二輪車駐車場の利用ニーズに関する調査」報告書(2020年3月)
http://www.jama.or.jp/motorcycle/environment/pdf/report_mc_parking_2020.pdf
JAMA「Motorcycle Information」2020年7月号/特集より
本内容をPDFでもご確認いただけます。
PDF:変容するバイク駐車場問題供給バランスの難しさが課題