●統計をもとに、全国の市区町村から原付の普及率が高いまちを割り出した。
●1万世帯以上を擁する都市のなかで、ナンバーワンは和歌山県有田市。
●原付がどのように使われているか、現地を訪ねてみた。
前回の前編では、20万世帯以上を擁する全国の都市(47団体)で、原付(50㏄以下)の世帯当たり保有台数(普及率)を割り出し、第1位の愛媛県松山市を紹介した。今回の後編では、全国の1万世帯以上を擁するまち(883団体)で、原付の世帯普及率を算出した結果、和歌山県有田市が日本一だった。
有田市の原付保有台数は4,995台で、1,000世帯当たり427.7台(42.8%)となる。まちの家々の4割に原付がある有田市とはいったいどんなまちなのか、現地を訪ねてみた。
有田市・みかん生産と漁業のまち
まず有田市役所を訪ねた。経営企画課の大松満至課長は、「和歌山県や愛媛県に原付が多いと聞いて、共通の特産品であるみかん生産と何か関係があるのか、関心が湧きました」と話す。
大松さんは、「みかんは降水量が少ない水はけのよい土地で栽培することで、甘くておいしいものが育つのです。日当たりと海からの風も大切で、南西向きの段々畑が山の斜面にたくさん見られます。急斜面の狭い道路の移動には、原付が使われている可能性が高いですね」という。
「しかし、当市に原付が多いのはほかにも理由があります」と、大松さん。「原付の保有状況を地区ごとに調べたら、宮崎、千田、港地区に集中しています。いずれも漁師町なのです。3地区合わせて約4,000世帯に、約2,000台の原付が保有されています。世帯普及率50%という驚くような状況です。ぜひ現地の様子を調べてみてください」と、アドバイスしてくれた。
みかん山へのアクセスは原付でGO!
まずは、みかん農家の仕事に原付が利用されているか確かめるため、みかんを生産・加工する株式会社早和果樹園を訪ねた。
この果樹園は、地元の7軒の農家が集まって設立した企業で、みかんを生産するだけでなく、ジュースやゼリーなどに加工することで商品価値を高め、業績を伸ばしている。経験豊富なみかん農家の高齢スタッフと、新規に入社した若手スタッフが共に働いているユニークな果樹園だ。
突然の取材にもかかわらず、同社EC事業課の藤原良太さんが快く応じてくれた。「みかんの生産に原付が使われているかどうかですが、収穫は軽トラックが主流です。ただ、そういわれてみれば、とにかくみかん農家の人たちは、原付で山に上っていますね」という。
さらに藤原さんは、「みかんの栽培には1年中作業があって、山に上らない日がないほどです。剪定作業ならハサミ一つあればできるので、バイクでサッと上って仕事して帰ってくる。収穫のときはたくさん人手が必要なので、軽トラックが1台行ったら、あとの手伝いさんはみんな原付で上って行って作業するのです」と話す。みかん山では、老いも若きも原付がベストコミューター。日々の作業に欠かせない足なのだ。
原付で出勤してきている従業員に話を聞きたいと頼んだところ、仕事中の手を休めて、われもわれもと8人が自分の原付を伴って集まってくれた。
ベテランの女性スタッフは、「朝はおとうさんが軽トラックで山へ出かけて、わたしは家事があるから後でバイクで追っかけるわけ。70歳過ぎたけど、コレ(原付)があれば山に上るのだってなんともない」と、高らかに笑った。
1人に1台“マイバイク”が普及する漁師町
有田市内にあるバイクショップ、有限会社エヌ・ワークスを経営する中村守男さんに、有田の漁師町になぜ原付が多いのか話を聞いてみた。「そこは古い地区のため住宅が密集していて、路地が狭く、軽自動車も奥まで入れません。地区内での移動は原付か自転車です。原付が一家に4、5台ある家もあります」という。
出漁は毎日、午前2~3時。自宅から港まで男たちがわれ先にと原付で出かけていく。船が漁から戻って来ると、魚の仕分けや運搬の手伝いに今度は女たちが原付で港へ駆けつける。「漁師は気が短いから、もたもたするのが嫌いなんですよ。だからクルマよりも、自転車よりも、いちばん重宝されているのが原付なんです」とのことだ。
実際に、宮崎地区へ足を運んでみた。町全体が入り組んでダンジョンのようになり、原付1台通るのがやっとの狭い路地。まるで映画のセットのような静かなたたずまいに感嘆するばかりだが、しばしば原付のエンジン音が近づいてくるたび、生活の息吹を実感する。
家を1軒1軒、眺めながら町内を歩いたが、ほとんどの家の庭先や軒下に原付が置いてある。2~3台とめてある家も少なくない。
ある家の前で、原付で出かけようとしていた50代の男性。「この家はバイクを4台持ってる。これがじいさんの、これがばあさん、こっちがせがれので、赤いのがせがれの嫁のバイク。その嫁っていうのが俺の妹で、俺はいまバイクで遊びにきて、これから帰るところ。バイクがなかったら話になんない。面白い町だろう?」と、嬉しそうに教えてくれた。
エヌ・ワークスの中村さんが言っていた。「原付が売れなくなったといわれるけど、有田のような町では、まだまだ便利な移動手段として活躍しているんです。いまは何かと若者にばかり目が行きがちだけど、田舎の60代、70代の高齢者が、好きなところに自由に出かけて元気でいられるのは、原付の効用として本当に大きなことなんです」。
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原付の普及率、日本一。松山市と有田市と、規模の異なる2つのまちを訪ねたが、気候、地勢、産業など、いろいろな要因によって原付の便利さが際立っていた。老若男女を問わず原付は使われており、市民の足として大いに役立っているのである。
〈資料〉全国・原付の世帯普及率ランキング(20傑)
市区町村別の原付の保有台数は、総務省の「軽自動車税に関する調」より、原付一種の賦課期日現在台数(2018年7月1日現在)を抽出した(表中の原付一種の欄)。人口および世帯数は、総務省の「住民基本台帳に基づく人口、人口動態及び世帯数」(2019年1月1日現在)から抽出。ランキングは、1万世帯以上の都市(883団体)を対象とした。20傑を一覧表にした。
JAMA「Motorcycle Information」2020年3月号/特集より
本内容をPDFでもご確認いただけます。
PDF:元気な暮らしを支える原付普及率が日本一のまち!(後編)