●若者のバイク離れ? そんな風評ふっとばせ!
●二輪整備士を養成する学校を訪ねてみた。
●とことんバイク好きな若者たちが、自分の夢をしっかり追いかけていた。
バイクのメンテナンスや修理を行う業務は、顧客の財産と安全を守る大事な仕事だ。分解整備を行うには国家資格が必要で、整備専門学校などに通って学び、資格を取得する若者が多い。とくに近年は、二輪車メーカーと提携して授業や課外活動に特色をもった学校に人気がある。そうした学校をいくつか訪ね、二輪自動車整備士(二輪整備士)を目指す学生たちに、夢を語ってもらった。
二輪整備士の資格を取ろう
バイクの分解整備を行う事業者になるには、「自動車整備士」の資格でも可能だが、やはり二輪に特化した「二輪自動車整備士」の資格(三級ないし二級)を取得することが望ましいだろう。
国土交通省自動車局整備課によると、二輪整備士の試験合格者は過去累計で三級資格が約3万人、二級資格が約1万4,000人となっている*注。2018年1年間の試験合格者数をみると、三級が約190人、二級が約480人という実績だ。
*注:整備士の資格は更新制ではないため、永久付与となる。このため資格の保有者数は不明。
二輪整備専門の学科が人気――YIC京都工科自動車大学校
自動車整備の実務経験がない人を対象にした整備士養成施設は、専門学校など全国に約230校が指定されている。このうち、二輪整備士を養成可能な施設は約80校あるが、二輪車に特化した学科を持つ学校はわずか数校しかなく、その一つが「YIC京都工科自動車大学校」(京都市下京区)の「二輪自動車整備科」(2年制)だ。
同校教務課長は、「この学科では、国内外の種類豊富なバイクを教材にしているので、さまざまな整備実習を積んで、知識と技能を習得することができます。バイクの整備に特化していますから、将来、バイク業界で働きたいという学生に最適です。大手二輪車メーカー、大手販売会社にも、毎年、人材を輩出しています」と話す。
同校では、近年、二輪車メーカーとの提携を積極的に行っており、スズキから講師を招いて、同社の最新鋭のスポーツバイクを教材にした「スズキ二輪技術講習会」を実施して、学生から好評を得ている。
また、ヤマハの主催による「企業説明会」も校内で実施されており、二輪自動車整備科のみならず大勢の学生が参加している。このガイダンスは毎年実施しており、同社の開発部門や整備部門へ採用される学生も出てきている。
同校教務課長は、「本校の二輪自動車整備科は、どの学生も“バイク大好き”というのが伝わってきて、やる気が違うなと感じます」と話す。一人の学生に話を聞いてみた。
■得意の英語を活かして海外にも挑戦したい
二輪自動車整備科2年のAさん(奈良県・21歳)は早くからアイスホッケーに親しみ、14歳でプロ選手を目指して、単身でカナダへ留学。スポーツ専門学校に通いながら1人暮らしをしたという。「まったく言葉もわかりませんから、生きていくために必死で英語を勉強しました。炊事も洗濯も自分でやりました」と話す。4年間をカナダで過ごし、英語力はネイティブ同然に。アイスホッケーで鍛えた屈強な身体ができ、生活力も身に付いた。
しかしプロ選手への壁は高く、Aさんは18歳で帰国。実家で、昔バイクに乗っていた両親の写真をたまたま見つけ、「バイクかあ、いいなあ」と思ったそう。すると両親もバイクを積極的に勧め、Aさんはさっそく免許を取得して250㏄スポーツを購入、走る楽しさにのめり込んだ。「ところがあるとき故障して動かなくなったんです。自分の愛車をどうにもできないのが悔しくて、自分で原因を突き止めて整備できるようになりたいと、この学校を選びました」という。Aさんはいま、バイクの整備に没頭する毎日で、それが楽しくてしかたがないそうだ。再び自分が打ち込める道を見つけたのだ。
Aさんは、来春から大手の二輪車卸販売会社への就職が内定。「仕事を通じて、バイクの魅力を国内外に発信していくのが夢です」と、目を輝かせた。
Hondaのカラーが魅力――ホンダ テクニカル カレッジ 関東
「ホンダテクニカルカレッジ(HTEC)」は、本田宗一郎が設立した整備士養成の専門学校で、関東校(埼玉県ふじみ野市)と関西校(大阪府大阪狭山市)がある。
関東校を訪ねた。学科は4年制の「一級自動車研究開発学科」と、2年制の「自動車整備科」があり、どちらの学科も「二級二輪自動車整備士」の技能を身に付けることができる。
教務部サービスエンジニア課の担当者は、「本校では、ホンダのエンジニアが講師を務め、教材となる車両にはホンダのクルマとバイクを豊富に揃えています。ほかにも、開発工程の現場見学、サーキットでのレース観戦、モータースポーツイベントへの参加など、グループ企業のつながりをフルに活用した学校運営をしています。そして卒業生の8割がホンダ関連企業へと就職していきます」と、学校の特色を紹介する。
キャンパスを案内してもらうと、校庭の一角にクラブハウスがあり、レースに出場するバイクや、燃費競技会に出場する車両づくりに、放課後の学生たちが楽しそうに取り組んでいる。クラブ活動が盛んなことも、学校の大きな特長とのことだ
■社会人としてのマナーが身に付いた
自動車整備科2年のBさん(福島県出身・20歳)は、二輪整備士を志望しており、二輪車販売店への就職も内定している。「この学校を選んだのは、ホンダのブランドに魅かれたからです。ホンダのクルマやバイクが大好きです」と話す。
学校行事の一環で行われた「二輪車安全運転講習」は、自分が変わるきっかけになった。「安全についてしっかり考えるようになって、何か行動するときのマナーにも気をつけるようになりました」と話し、自分自身の成長を感じている様子。「仕事に就いたら、大好きなバイクを通じて、お客様と家族のようなつながりを持ちたいし、バイクに乗ったことがない人には楽しさを広めたい」と、いまから楽しみにしているようだ。
■アジア向けのコミューターを開発したい
「この学校にいると、いろいろなことにチャレンジしたくなるんです」と話すのは、一級自動車研究開発学科2年のCさん(福島県出身・19歳)。クラブ活動ではミニバイク部に所属してレースに出場しており、3年生になったら海外で行われるヒストリックラリーへ参戦したいという。入学当初は2年制の学科を選択していたが、もっと学んでキャンパスライフを楽しみたいと、4年制の学科に変更したそうだ。
「先生方の話を聞くうちに、バイクの世界のいろいろなことがわかってきて、興味が湧いています。将来はバイクの研究開発に携わりたいのですが、アジアの国々の暮らしに役立つようなコミューターを開発してみたいです。日本とはガソリンの品質が違うので、対応するタフなエンジンを研究したい」と話す。
自分のやりたい仕事がしっかり見えており、じつに頼もしい青年だ。
■難しい修理ほどやる気が湧いてくる
一級自動車研究開発学科3年のDさん(埼玉県・21歳)は、父親の影響でバイク整備に興味が湧き、メカニックを目指すことは自分にとって自然な成り行きだったと話す。「私は機械を見ると、なぜ動くの?とか、なぜ壊れたの?と、“なぜ?”が止まらないんです。原因究明が面白いんです」と話す。
Dさんが一級の整備士を目指す理由も、上位の資格があるなら、その中味を身をもって知りたいからだ。「私は文系なので、難しい計算とかは苦手なんですが、突き詰めることで理解はできると思うんです。バイクの整備にしても、いわゆる“難修理”に取り組むのが好きで、手に負えない故障であればあるほどやる気が湧いてきます」と話す。卒業したら、二輪車メーカーのメンテナンス部門のなかでも、奥の深い領域で仕事をしたいと考えているようだ。女性の二輪整備士はまだまだ少ないが、Dさんが道を一本切り開いてくれると期待したい。
カワサキコースを新設――日本モータースポーツ専門学校
「日本モータースポーツ専門学校(JMC)」(大阪市大正区)は、クルマのドライビングテクニックやメンテナンスに関する知識と技術を学べるユニークな学校だ。もともと三級自動車整備士を養成する学科のなかに「二輪レースメカニックコース」(1年制)があるが、2017年には二級整備士を養成する学科に「カワサキコース」(2年制)を新設した。
兵庫県明石市にメーカーと卸販売会社があるカワサキは、二輪整備士の育成に寄与し、若い人材の確保につなげるため、同校に対して一部インターシップ制度の導入をはじめとする協力を行っている。
JMCの教務リーダーは、「本校としては、学科にカワサキブランドを掲げることで、バイク好き、カワサキ好きの若者に注目してもらうことができます。講義にはカワサキから講師を招き、教材には最新機種のバイクを協力してもらっています。さらには、二輪車安全運転講習会の実施、開発現場や車検工場、販売店の見学、カワサキが主催するイベントへ本校のPRブースを出展するなど、密度の濃い連携協力をいただいているところです」と話す。
■バイクの安心と楽しさをお客様に届けたい
カワサキコースの2年生・Eさん(大阪府・19歳)は、「高校1年で二輪免許を取得して、初めて自分で中古の250㏄スポーツを安く購入しました。ボロボロのバイクだったので、結局、いろいろな装置や部品を自分で交換するハメになり、バイトで貯めたお金は全部バイクにつぎ込みました。でもそのおかげで、本気で整備を勉強する気持ちになったんです。ちょうどそんな時期に、この学校にカワサキコースができたと知って、入学を決心しました」と話す。
Eさんは就職も内定し、これからは実習の授業もいっそう本格的になる。「やはり自己流の整備でなく、先生に教わると、新しい発見がたくさんあります。整備の腕を磨いて、仕事ではバイクの安心と楽しさをお客様に届けたい」と話してくれた。
■将来は自分のバイクショップをもちたい
「女やから重たいの持てへんやろなあとか思われるんで、逆に見返したろっていう負けん気のほうが強いですね。見とけよ、できるし、みたいな感じです」と笑うのは、カワサキコースの2年生・Fさん(大阪市・19歳)。
祖父が二輪車販売店を営んでおり、バイクに囲まれて育った。「親には絶対負担かけへんからって納得させて、バイトして高校1年で免許を取って、新車のホンダ250㏄スポーツをおじいちゃんとこで買いました」という。高校時代は、バイクで出かけるのが楽しい毎日。故障がなく修理するところはないが、「自分のバイクやし、消耗品を交換したり、ハンドルやステップを好みの位置に調整したり、あとは塗装を変えたくらいやけど、自分でメンテナンスしてます。もっと技術を窮めて、カッコいいメカニックになりたい。自分の店を持つのが夢なんです」と、Fさんは話していた。
今回の取材のなかで学校の担当者は、「自動車産業と二輪車産業は、日本のモノづくりを守る“最後の砦”です。この業界を支えてくれる若い人たちをもっと増やして、しっかり育てなくてはなりません」と話し、教え子たちに大きな期待を寄せていた。
JAMA「Motorcycle Information」2019年7月号特集より
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PDF:バイク業界の将来を担う!二輪整備士を目指す若者たち