●都市再生に伴い、自動車駐車場の附置義務を柔軟にしようという動きがある。
●たとえばその際に、附置義務駐車枠を自動二輪車に振り分けることも可能。
●二輪車駐車場を確保するには、自治体の率先的な取り組みが期待される。
未だに不足している二輪車の駐車場をいかに増やすか。国や自治体の取り組みにかかる期待は大きい――。
大局的な都市の問題として、少子高齢化が進むわが国では、将来、快適な暮らしを維持するために「コンパクト・プラス・ネットワーク」(都市のコンパクト化と都市を結ぶ公共交通網の整備)構想が提唱されている。この実現のため2014(平成26)年に『都市再生特別措置法』が改正され、「立地適正化計画」に基づくまちづくりに取り組む自治体が、全国で357都市におよぶ。
そうした動きがあるなかで、自動車駐車場に関する国の政策は、まちづくりと連携した施策を行うことに重点が置かれている。これまで無秩序に整備されてきたまちなかの駐車場を見渡し、その量と質をコントロールして再配置しようという取り組みだ。
二輪車駐車場の確保に関しても、こうした都市の再生がなされるなかに、しっかりリンクさせていく必要がある。国土交通省に、近年の取り組みについて話を聞いた。
全国会議で二輪車駐車場の必要性を訴え
今年2月2日、国土交通省で「第31回全国駐車場政策担当者会議」が開かれた。この会議は、同省が都道府県および政令指定都市などの駐車場政策担当者を集めて年1回開催しているもので、国の駐車場政策に関する方向性を示し、社会情勢の変化に対応した施設整備が広まるよう働きかけている。
このときの会議では自動二輪車の駐車場不足も課題の一つに挙がり、施設整備の必要性が指摘された。同省の資料によれば、『駐車場法』の対象に自動二輪車が追加されたのは2006(平成18)年のこと。10年後の2016(平成28)年現在、全国の自動二輪車駐車場は1,767カ所で、対2006年比で約7倍に増加した。しかし、保有台数当たりの駐車場台数(収容枠数)をみると、四輪車は保有台数1,000台につき駐車場台数が65台なのに対して、自動二輪車は10台という水準に留まる。自転車駐車場で受け入れている台数を足せば、その水準は51台まで増えるものの、125cc以下の自動二輪車に限られるケースが多く、「バイクをとめられる場所がない」というユーザーの声は未だに多いのが実情だ。
同省はこの会議で、「自動二輪車の駐車場は自動車に比べて少ない。都道府県によって差があり、十分な整備ができていない地域がある」と現状を指摘している。
駐車場の量と質をマネジメントする
会議を開催した国土交通省 都市局 街路交通施設課では、今後の駐車場政策の方向性について次のように話す。
「都市の規模によって異なりますが、たとえば高密度に店舗が立地している地区では、個々の店舗に自動車の附置義務駐車場の設置を求めると、店舗スペースが削減されるだけでなく、駐車場が散在することで街並みが分断されたり、駐車場の出入口が増えることで歩行者の安全にも影響が出ます。このため、個々の店舗に附置義務を求めるのでなく、店舗から離れた場所にまとめて駐車場を配置できるようにするなど、適正な供給量とレイアウトを柔軟なものにコントロールしていく必要があると考えています」
実際に駐車場施策を行う自治体は、地域を俯瞰して課題をあぶり出したうえで、まちづくり計画(立地適正化計画等)や法律・条例などを駆使して、まちの発展や歩行者の安全に配慮した駐車環境をマネジメントすることになる。その際、駐車場の高質化(地球温暖化対策、災害時対策、駐車場利便性向上、快適な都市環境等)を図ることにより、駐車場そのものをまちづくりに貢献させようという新たな役割も提唱されている。
二輪車駐車場の附置義務条例に注目
そうした考えのなかで、自動二輪車の駐車スペースはいかに増やすことができるのか、施策の方向性について尋ねた。
国交省・街路交通施設課は、「自動二輪車の駐車場不足が顕在化しやすいのは、とくに都市部だと思われます。そうしたエリアでは、公共交通機関が発達していることもあって、自動車の駐車場は全般的に余る傾向にあります。先ほど述べた背景も踏まえて、四輪車用に課している附置義務基準を見直す(柔軟化する)際に、自動二輪車の駐車場が適正に整備されているかも一緒に点検して、附置義務に加えることも可能です。『駐車場法』に基づく附置義務条例を定めている自治体は200弱ありますから、それぞれの状況に応じて検討してほしいところです」と話す。
現在、『駐車場法』に基づく附置義務条例に自動二輪車を盛り込んでいる自治体は全国で9都市しかない。『駐車場法』によらない独自の条例で、原付を含めた二輪車駐車場の附置義務を設けいている仙台市などのケースもあるが、二輪車駐車場の附置義務はまだ一般的とは言い難い。四輪車枠を減らして二輪車枠に転用できるようにするなど基準緩和を伴った内容にすることで、二輪車駐車場を増やす有効な施策の一つとして注目できそうだ。
附置義務により10年で約1,000台確保
実際に自動二輪車駐車場の附置義務を導入したケースをみてみたい。
横浜市は、2007(平成19)年12月に「横浜市駐車場条例」を改正し、自動二輪車の駐車場附置義務を導入した。市内に定めた駐車場整備地区や商業地域では、延べ面積が1,000平方メートルを超える建築物を新築または増築等する際に、3,000平方メートル当たり1台の自動二輪車駐車枠を設けることとした(3,000平方メートルまでは1台)。
同市 都市整備局 都市交通課によると、条例改正以降2017(平成29)年末で、附置義務によって整備された自動二輪車駐車場は累計で230施設にのぼり、合計で約1,000台分の駐車枠が供用された。導入当時の担当者は、「年間100台ほど駐車枠の増加が期待できる」と見込んでいたもので、予測通りの効果を示す結果となっている。
同課では、「附置義務の場合、基準では最低限の設置台数が示されますが、設置者が必要と感じれば基準以上の駐車枠を設けることも可能です。中・長期的にみると条例の効果は期待できるものと考えます」と話している。
二輪車駐車場のさまざまな手法を紹介
さて二輪車業界にとって、二輪車駐車場の確保・拡充は長年の重要課題となっている。これまで駐車環境改善の要望署名(100万人以上)を政府に提出(2008年)したほか、自治体の取り組み状況を調査したり、駐車場整備の好事例集を発行するなど活動を続けている。
一般社団法人日本自動車工業会(自工会)で、二輪車の駐車場問題に取り組んでいる二輪車特別委員会 二輪車安全環境分科会・伊藤祐治分科会長は、「たまに自治体の方から『二輪車の違法駐車がほとんどないので、これ以上駐車場はいらない』と言われることがあります。しかしそうではなくて、とめる場所がないからバイクを利用できない状態なのです」と話す。
伊藤分科会長は、前出の「第31回全国駐車場政策担当者会議」にも招かれ、近年、原付二種(50㏄超)以上の二輪車が増えていることや、ユーザーから駐車場整備のリクエストがいかに多く届いているかについて報告。さらに自工会が2016年に制作した「自治体の二輪車駐車場事例集」をもとに二輪車駐車場のさまざまな整備手法を紹介した。
伊藤分科会長は、「近年、ツーリングライダーを観光誘致するなど、二輪車を活用したまちおこしも注目されています。自治体の担当課にはぜひ率先して二輪車を受け入れ、駐車場を確保・拡充していただけるようお願いしたいと思います」と話している。
JAMA「Motorcycle Information」2018年3月号特集より
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PDF:駐車場政策動向