●高校生の原付通学者の数が全国トップクラスの茨城県。
●原付の運転実技を含めた交通安全教育に取り組んでいる。
●茨城県における安全教育を例に、高校生とバイクの関係を考えた。
原付通学者の多さで全国トップクラス
一般社団法人日本自動車工業会が2016年度に行った都道府県教育委員会(県教委)への調査によると、原付免許を保有している生徒が多い上位3県は、①茨城県(4,814人)、②山梨県(3,073人)、③宮城県(1,992人)。また、原付通学が許可されている生徒が多い上位3県は、①鹿児島県(2,718人)、②茨城県(2,585人)、③山梨県(2,008人)という結果だった。
「三ない運動」を推進してきた群馬県や埼玉県の隣にあって、茨城県の高校生の原付利用の多さは全国でもトップクラスとなっている。これはどのような理由によるものか――。
原付利用を認め安全教育を実施する方針
茨城県教育庁学校教育部保健体育課では、高校生に対する二輪車利用の方針について次のように説明する。
「本県は昭和56年に教育長通知を出し、高校生徒には自動二輪免許を取得させないよう指導しています。しかし原付免許については規制せず、原付通学の可否は、各学校が地域の実情に合わせて判断しています」
茨城県は、生活圏が県全域に広がっており、そこに高校が点在している。このため鉄道など公共交通網が十分に行き届かない地域も多い。
「駅が遠いなどの理由から、毎日マイカーで送り迎えしてもらっている生徒も少なくありません。通学にかかる家庭の負担は大きく、原付通学を許可する学校が多いのも、そうした交通事情が影響しています」
こうした状況にあって、県立高校(全日制)93校のうち、原付の免許取得を禁止している学校は7校(7.5%)と、他県に比べてかなり少ない。“条件付き許可”が81校(87.1%)で、“制限していない”が5校(5.4%)となっている。また、原付通学を許可している学校は72校(77.4%)もある。
県教委としては、運転実技を含めた安全教育をしっかり行うことが望ましいと考えているため、生徒に対する安全教育として、毎年10校程度を選定し、自動車教習所での原付講習を受けさせている。選定から外れた学校も、警察や交通安全協会の協力を得て独自に原付講習を行うなど、安全教育に熱心な学校が多い。県教委および学校、地域の機関・団体の協力が、県内高校生の原付利用を支えてきたといえる。
原付通学は現実的な選択肢――つくば工科高等学校
つくば市にある茨城県立つくば工科高等学校は、生徒数が約560人の工業高校で、近年、原付通学を解禁した。生徒指導担当の先生は、「本校は、工業高校の特色を前面に出し、積極的に入学希望者を募っているため、県内の広い範囲から生徒が通ってきます。しかし駅から学校までが遠いため、通学環境は楽ではありません」と話す。
周辺の主要駅は、つくばエクスプレス「みどりの」駅(学校まで約2.5km=徒歩30分)と、JR常磐線「牛久」駅(学校まで約10km=自転車40分)。「少子化が進むなか、入学希望者を増やすことがどの学校でも大きな課題になっています。その問題を解消するアイデアの一つが原付通学の解禁だったのです」とのこと。保護者にアンケートを取ったところ大きな反対もなく、同校は平成25年度から生徒の原付通学を許可している。ただし、許可を受けられるのは2年生以上とされており、自宅から学校までの距離が8km以上であることなど条件がある。そうした条件をクリアして、現在18人の生徒が原付で通学している。
■原付通学で授業への集中力が変わった
3年生の男子生徒は、自宅から学校まで18km。「自転車だと必死で漕いでも、片道1時間かかります。朝から汗だくでぐったりです。原付通学なら片道30分で、楽々というか、登下校するのが楽しい! 体力にも気力にも余裕があるので授業に集中できます」と話す。
■バイクを通じて親との会話が増えた
通学距離が20kmの3年男子は、原付通学するまでは親に送迎してもらっていた。「原付通学が許可されて、父は喜んで新車を購入してくれました。車体にキズをつけたりしないように大事に扱っています。メンテナンスも父と一緒にやったりして、バイクを通じて親との会話がだいぶ増えた」と話す。
同校では、「今後も原付通学は必要となる。学校独自の安全教育も検討していく」ということだ。
200人近い生徒が原付通学――玉造工業高等学校
行方市にある茨城県立玉造工業高等学校は、在籍する生徒497人のうち、189人(38%)が原付で通学している。朝8時20分を過ぎると、子供を送る保護者の車と原付で登校する生徒が途切れることなくやってくる。
生徒指導担当の先生は、「本校は、公共交通機関が乏しいという通学環境もありますが、バイク利用に関する基本方針は“乗せる指導”です」と話す。卒業生の7割は就職し、社会に出ればすぐにクルマの運転が必要になる。交通社会のルールやマナーを原付の安全運転を通じて学ばせ、クルマに移行する際にも戸惑いがないように指導しているという。
このため同校では、通学距離が短い生徒も原付通学が可能だ。希望者は1年生のうちから誰でも申請でき、学校が毎月実施している「バイク講習」を受講した者から通学許可が下りる。
特筆すべきはこの「バイク講習会」で、校内にある職員用駐車場を使い、ラインを引きパイロンを置いて講習コースを作っている。運転指導も教職員が協力しあって務めており、まさに学校独自の手作り講習会。わずかな時間の講習だが、生徒のスキルを把握でき、継続的にフォローアップするなど教育効果は大きいという。
■機械としてのバイクに興味が湧いてきた
鉾田市から約10kmを原付で通う3年生の女子生徒は、「私バイクが大好きなんです。はじめは2ストと4ストの違いもわかりませんでしたが、だんだん車両の構造に関心が湧いてきて、卒業後は二輪整備士を目指します! おかげで機械科の授業が面白いし、家に帰ってもバイクの整備をやったりして、朝から夜まで毎日が楽しい」と、笑顔を見せた。
■通学にかかる家庭の負担が大きく減った
小美玉市から通う3年男子は、以前スクールバスを利用していた。「バスの料金は片道500円なので、通学費が1日1,000円かかっていました。親の負担が大きいため、バイク通学に切り替えました。親に心配をかけないように、とにかく安全運転を心がけています。原付の費用は1カ月5,000円程度で済んでいるので、すごい節約になっていると思います」と話していた。
JAMA「Motorcycle Information」2017年7月号特集より
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PDF:茨城県の安全教育