●国内二輪車市場には、若者や女性による新規需要の拡大が必要。
●大学や高校で行われている画期的なバイクイベントを見た。
●女性のバイク需要動向にも注目していきたい。
大学キャンパスで開かれたプチ・バイクフェス
2016年9月22日、群馬県桐生市にある国立群馬大学のキャンパスで、「群馬大学モーターサイクルカレッジ」が開催された。これは群馬大学バイク部と、株式会社ホンダモーターサイクルジャパン(HMJ)との共催で開かれた催し。バイク好きの学生が多数来場し、キャンパス内でちょっとしたバイクフェスティバルが実現した。
午前中は、二輪車の製造技術に関するディスカッション。同大学院理工学府の教授と株式会社本田技研研究所 二輪R&Dセンターの上席研究員、さらにバイク部の学生も加わり、二輪車開発の将来について語りあった。
午後になると、キャンパス内にトライアルの“特設競技場”が出現。全日本選手権チャンピオンの小川友幸選手が登場し、バイクの超絶テクニックを披露した。トライアルの実演を初めて見る学生も多く、「トリハダが立ちました。人間の能力ってスゴイ」、「ウィリーってどうやるの?」と、興奮気味。バイクがアクションを起こすたびに、どよめきと拍手が沸き起こっていた。
ほかにも、「ライディング講習会」や「キャンパス試乗会」も開催。学生たちは、いろいろな角度からイベントを楽しんでいた。バイク部の学生は、「キャンパス内でバイクイベントができるなんて画期的です。乗らない学生たちにもバイクのよさがアピールできたと思います」と、満足そう。同部の顧問は、「トライアルはかなりインパクトがありましたね。安全啓発の面でも納得のいく内容でした。今後、学生が中心になって運営できれば、ますます有意義な催しになるのでは」と話していた。
高校の文化祭でオフロードバイク教室
10月1日、千葉県横芝光町にある私立横芝敬愛高等学校で、秋の文化祭が行われていた。校門をくぐると、「え? ホント?」という光景が目に飛び込んできた。校舎の正面に、最新モデルのスクーターやスポーツバイクが、地元の二輪車販売店の協力でズラリ展示されていたのだ。
通りかかった生徒たちは、「これがいい、あれがいい」と、1台1台眺めたり跨ってみたり。話を聞くと、「自分たちの学校はバイクもクルマもオッケーなんです。周りの学校は禁止なんで、ちょっと自慢なんですよ」と説明してくれた。
校庭では、地元のバイクインストラクターが協力し、「オフロードバイク教室」を開催。希望する生徒に正しい運転の仕方と安全確認の大切さを指導していた。じつはこの学校、2015年1月にバイクの「三ない運動」をやめ、生徒の二輪免許取得とバイク通学を認めて、安全教育を充実させる方針に転換。校内でのバイクイベントは、交通教育の一環として行われたものだ。
校長は、「バイクもクルマも移動の道具ですから、扱い方を学んで、安全に使いこなせることが大切。道具を使わせないのでなく、正しく使える人材を育てるのが教育です」と話している。
10代女子の免許取得増に注目!
二輪車市場にとって、新規ユーザーとして期待できる潜在層には“女性”の存在もある。女性の間でバイクブームがブレイクすれば、需要拡大のノビシロは男性より大きい可能性があるからだ。
ブームの兆候はミドルエイジから始まっており、女性の40代以降は普通二輪免許の取得者が急増している(2001年と2015年を比較すると約4倍に増加)。ボリュームゾーンの20~30代にも需要拡大のきっかけが欲しいところだが、ここで注目したいのはさらに若い“10代女子”。
その普通二輪免許取得者は、男性のようには減少しておらず、2001年の実績と比べれば2015年は約126%に伸びている。いわば“根強いバイク人気”が起きている。またボリュームは小さいものの、10代女子の大型二輪免許取得は増加傾向が明らかだ。
若い女性たちはいま何がきっかけでバイクの世界にエントリーしてくるのか、2人のユーザーに話を聞いてみた。
■発端は両親の二輪免許取得
大阪府堺市の女子高校生Yさん(17歳)は、4年前に両親が二輪免許を取得したのをきっかけにバイクに憧れるようになり、2015年7月に普通二輪免許を取得した。教習所には15歳のうちから入校し、16歳の誕生日を待ってすぐに運転免許試験を受けたという。
「中学2年のとき、お父さんのバイクの後ろに乗せてもらって、風を受ける感じが気持ちよくて、『バイクっていいなあ』ってずっと思ってました」と話す。「免許を取りたい」と打ち明けると、両親は「おー、がんばって」と応援してくれたという。2016年の夏には母親と一緒に、大人のバイク仲間に交じって九州ツーリングを敢行。「オジサンたちからすごくアドバイスされて、かわいがってもらいました。バイクに乗るだけで大人とコミュニケーションできるのがスゴイです」と、嬉しそう。
周りの同世代については、「みんな好奇心があって、バイクやクルマでいろんなところに行ってみたいハズです。私みたいに『免許を取りたい』と思うかどうかは、何かきっかけがあるかないかの違いだけだと思います」と話した。
■10代で決心、20歳を機に免許取得
群馬県高崎市の会社員Uさん(21歳)も、やはり両親が大のバイク好き。高校生のときは父親の後ろに乗ってツーリングを楽しんだり、毎年、家族ぐるみでMotoGP観戦に出かけるなど、卒業後はバイクに乗るのが当たり前だと考えていた。
「ところが二輪免許を取ろうとしたら、両親から『自立するまではダメ』と反対されてショックでした」と話す。就職して20歳になったのを機に、両親を説得して念願の普通二輪免許を手に入れた。結局、娘と一緒にツーリングしたいらしく、父親があっさり許してくれたという。
最初に選んだバイクは、新型のスポーツネイキッド。自分でローンを組んで購入した初めての愛車だけに、納車されたときには喜びもひとしおだった。「こんなに素敵なバイクが自分のものになったなんて信じられない気分でした。機械というより、もっと大切な“相棒”ができたみたい」とのこと。
最近、友だちから「私も免許を取りたい」と相談されることが多い。「バイクに乗ろうという気持ちって、伝染するんですね。私にとって両親がそうだったように、身近な人から受ける影響は大きいと思います」と話していた。
女性のバイク利用増でバイク文化の発展も
今回登場した2人の女性ユーザーの場合、二輪免許取得への動機は親からの影響が大きかった。この十年来、男女とも40代以上のバイクブームが続いているが、その子供たちが、親の理解とサポートのもと新規ユーザーとしてエントリーしてくるケースが増えていると考えられる。
ただ、10代男子の免許取得にはそうした傾向が見られないため、10代女子特有の現象だ。また、2人のケースとも、家族ぐるみでバイクを楽しむという幸せな家庭環境のなかから新しいバイク需要が生まれており、こうした需要を大事に伸ばしていくことは、バイク文化の発展にとっても大いに価値がある。
“若者”と“女性”のバイク需要をこれからいかに伸ばしていくか、今後の国内二輪車市場にとって大きなテーマになりそうだ。
JAMA「Motorcycle Information」2016年12月号特集より
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PDF: 若者と新規