●警察、消防、国土交通省には、災害時に備えたバイク活用の取り組みがある。
●バイクの機動力や燃費のよさを活かして、被災地での効果的な活動ができる。
●近年の地震や台風による被害で、バイク隊が実際に出動するケースも出てきている。
※この記事は発表当時(2015年9月)の内容を掲載したものです。
国の危機管理体制の強化とバイク
国内で大規模な自然災害が発生した場合、警察や消防、国土交通省などの行政機関は、それぞれの防災業務計画に基づいて災害対策に当たることになっている。とくに大震災などの被災現場でバイクの有用性が認められるようになったのは、1995年1月の阪神・淡路大震災による教訓だ。
当時、倒壊した建物などによって交通機能がマヒしたなか、多くの市民が買い出しなどの足にバイクを使った。また、「震災直後、大阪市旭区から神戸市までのクルマの所要時間は約16時間。同時に出発したバイクはわずか2時間で到着した」という記録もあり、バイクの機動性や迅速性がいかに頼れるものだったかがわかる。
都道府県警察による災害時のバイク活用
警察庁は東日本大震災の後、災害時の危機管理体制を見直し、2012年5月に「警察災害派遣隊」を新たに編成した。これは大規模災害が発生したときに、都道府県の枠を超えて応援部隊が被災地に派遣される仕組みだ。派遣隊のなかには交通部隊や警備部隊などがあり、それらの部隊には被災地での情報収集活動を行う「先行情報班」が置かれ、主にこの班によってバイクが運用されている。現在、交通部隊に約170台、警備部隊には約300台のオフロードバイクが配置されている。こうしたバイクの役目は、後続部隊の活動を有効なものにするため、いち早く現地の被災情報を収集することにある。
また最近は、「警察災害派遣隊」とは別に、都道府県警察が独自に災害時の活動用にバイクを導入しようという動きもある。注目すべき例が、2014年3月に警視庁が全国で初めて導入した“オフロード白バイ”。地震などの災害発生時に出動し、現場の状況を車載カメラで撮影して本部に送信し、被災状況をリアルタイムに確認できる機能を搭載している。
首都直下地震などが発生した場合、緊急交通路の確保を行うなど、オフロード白バイの機動性を活かした活動を想定しているという。
消防本部が活用する“赤バイ”の有用性
警察の“白バイ”に対して、消防機関は“赤バイ”(消防バイク)を運用している。消防本部は全国に750本部あるが、配備されている車両数は合計159台となっていて、全体からみると消防バイクの普及はまだ一部に限られている。しかし、実際に運用している消防本部の評価は高く、「大型車両や救急車等が通行できない狭い道路や場所(山岳など)に進入し、迅速に各種活動が可能であること、また、車両渋滞時に先行して現場に到着して活動できる」との報告もあり、バイクによる活動メリットは少なくない。
地域に貢献している消防団バイク隊
消防団は地域の住民が自ら参加して運営する消防機関で、全国に2,200を超える組織がある。そのうちわずかではあるが、消防バイクを保有している消防団もあり、消火活動をはじめ、遭難者の捜索、防災広報、避難広報、祭りの警備など、いろいろな場面で活動している。
宮城県気仙沼市の消防団は、緊急車両の消防バイク3台と一般車両のオフロードバイク3台を運用して、隊長以下9人の隊員でバイク隊を組織している。東日本大震災では、津波の危険が迫る最前線で拡声器を使って避難誘導を行い、被災後には、クルマの通行が途絶えた孤立集落に進入して住民の安否確認を行うなど、必死の活動を展開した。
隊員の1人は、「津波で道がなくなり、ヘリコプターでなければ行けないような孤立集落に養護施設が残されました。そこにいる子供にぜんそくの薬を届けることができたときは、バイクの威力に感謝したものです」と話している。
一刻も早いインフラ復旧のために
一般にはあまり知られていないが、国土交通省も災害時の緊急対応にバイクを活用している。これは地震などの災害発生時に、管轄する国道の被災状況を把握するのが主な任務。
北陸地方整備局では、東日本大震災の際に調査用バイクを被災地に2台派遣。リエゾン(災害対策現地情報連絡員)の移動の足として活用した。津波で破壊された町を復旧させるために、まずは道路の啓開が必要になり、浸水地域から水を掻き出すポンプ車や重機の手配にバイクでの情報伝達が大いに役立ったという。
JAMA「Motorcycle Information」2015年9月号特集より
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PDF: 災害時バイク